山雷頤

さんらいい

何を取り入れ、何で自分を養うかが問われる時

上卦:艮(山) 下卦:震(雷)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文頤、貞吉。觀頤、自求口實。

書き下し頤(い)は、貞(ただ)しければ吉(きち)。頤(やしな)うを觀(み)て、自(みずか)ら口實(こうじつ)を求(もと)む。

やさしく読み解くと

「頤(い)」は口やあごをかたどった字で、「養う」という意味を持っています。

今のあなたの周りには、何を食べ、何を口にし、誰と過ごし、どんな情報や言葉を取り込むか——つまり自分の心と体を、何でどう養っていくかが、静かに問われている空気が流れているようです。

体調を整え直している時、生活や習慣を見直している時、誰か(後輩・子ども・チーム)を育てている時、あるいは「自分は何に頼って生きているんだろう」と感じている時に、この卦はよく出ます。

ただ、その「養い」が自分を健やかに育てるものになるか、それとも欲や甘えに流れて自分を損なうものになるかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。

だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初九(しょきゅう) ― いちばん最初の段階

白文舍爾靈龜、觀我朵頤、凶。

書き下し爾(なんじ)の靈龜(れいき)を舍(す)て、我(われ)を觀(み)て頤(おとがい)を朵(た)る、凶(きょう)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
自分の中の宝を忘れて、人のものをうらやんでいないか——立ち止まりたい段階かもしれません。
今は、こんな時
あなたには本当は、自分で自分を養える力(原典でいう「霊亀」=大切な宝)がちゃんとあるんです。なのに、それを脇に置いて、隣の人のごちそうを口を開けて眺めている——そんな状態になっていませんか?同僚の成果がうらやましくて自分の足元が見えなくなっている、SNSで他人の暮らしばかり追って気持ちがすり減る、誰かに養ってもらおう・おごってもらおうと当てにしている。もし心当たりがあるなら、今は欲のほうに引っ張られやすい時かもしれません。
とるべき行動
まずは、自分がすでに持っているものに目を戻してみるといいと思いますよ。自分の手で稼ぐ、自分で作る、自分の力で整える——地味でも、自分を自分で養う感覚を取り戻すこと。それが今いちばんの栄養になります。
気をつけたいこと
人のものをうらやんで自分の宝を手放してしまうと、ここははっきり凶(よくない結果)と出ている段階です。脅すわけではありません。でも「人と比べて欲を出す」その一歩だけは、ぐっとこらえてほしい時なんです。

この爻が陰陽反転すると、卦は山地剝(さんちはく)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

六二(りくじ)

白文顛頤、拂經、于丘頤、征凶。

書き下し頤(やしな)いを顛(さかさ)にし、經(つね)に拂(もと)る。丘(きゅう)に頤(やしな)いを求(もと)む、征(ゆ)けば凶。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
助けを求める相手や向きを、間違えやすい段階のようです。
今は、こんな時
自分で養うべきところを、筋ちがいの相手にねだってしまう——常道から外れた頼り方をしてしまいやすい時です。本来は対等であるべき相手に寄りかかる、頼ってはいけない人に「なんとかして」と甘える、立場が上の人へ無理なお願いを重ねる。そんなふうに、頼る矛先がズレていませんか?
とるべき行動
今は、無理に動いて何かを得ようとしないほうがよさそうです。誰に・何を頼るのが筋なのか、いったん落ち着いて整理してみてください。向きを正すまでは、急いで前に進まないのが安全です。
気をつけたいこと
このまま筋ちがいの頼り方で突き進むと、進めば凶と出ています。動くこと自体が悪いのではなく、「ズレたまま動く」のが危ういんです。まず向きを直す。それからでも遅くありませんよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は山澤損(さんたくそん)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

六三(りくさん)

白文拂頤、貞凶、十年勿用、无攸利。

書き下し頤(やしな)いに拂(もと)る、貞(てい)なれども凶。十年(じゅうねん)用(もち)うる勿(なか)れ。利(よろ)しき攸(ところ)无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
今の「養い方」そのものが、根っこからズレているのかもしれません。
今は、こんな時
これは6つの段階の中でも、いちばん厳しい注意が出ているところです。養いの道にまるごと背いている——たとえば、体に悪いと分かっているものをやめられない、刺激や快楽でその場をしのぎ続けている、心をすり減らす関係や情報に浸かりきっている。「これ、本当は良くないよな」と分かっていながら続けてしまっている。そんな心当たり、ありませんか?
とるべき行動
もし思い当たるなら、ここは思い切って手を止めることをおすすめします。原典は「十年は動くな」とまで言っていて、それくらい腰を据えて、今のやり方を一度きっぱり断つ覚悟がいる段階なんです。新しく何かを足すより、まず悪い習慣を抜くこと。
気をつけたいこと
このまま続けると、たとえ本人が「正しいつもり」でも結果は、そして何の利もないとはっきり出ています。ここだけは、やさしく包まずお伝えします。今は踏ん張って方向転換する時。焦って別の何かに飛びつかず、まず立ち止まってくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は山火賁(さんかひ)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

六四(りくし)

白文顛頤、吉、虎視眈眈、其欲逐逐、无咎。

書き下し頤(やしな)いを顛(さかさ)にすれども吉。虎視(こし)眈眈(たんたん)たり、其(そ)の欲(よく)逐逐(ちくちく)たり、咎(とが)无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
人の力を借りていい段階。素直に頼れば、うまくいきますよ。
今は、こんな時
あなたは今、上の立場や責任ある位置にいながら、自分ひとりでは賄いきれず、下や周りの力を借りる必要がある——そんな局面にいませんか?役職に就いたばかりで現場の人に教わっている、プロジェクトの長として専門家の手を借りている、家庭で誰かに支えてもらっている。引け目を感じる必要はありません。ここで人に頼ることは、むしろ吉と出ているんです。
とるべき行動
頼るなら、虎が獲物を見つめるように真剣に、そして粘り強く——中途半端でなく、本気で力を借りにいくのがよさそうです。「ちょっと手伝って」ではなく、「あなたの力が要る」と腹を据えて頼む。その真剣さがあれば、咎められることはありませんから、遠慮しすぎないでくださいね。
気をつけたいこと
ただ、頼り方が軽かったり、相手を都合よく使うだけになると、せっかくの縁が痩せてしまいます。真剣さと敬意——そこだけ外さなければ大丈夫ですよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は火雷噬嗑(からいぜいごう)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

六五(りくご)

白文拂經、居貞吉、不可涉大川。

書き下し經(つね)に拂(もと)る。貞(てい)に居(お)れば吉。大川(たいせん)を涉(わた)るべからず。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
信頼できる人に寄りかかって、今は守りに徹する段階かもしれません。
今は、こんな時
自分ひとりの力では、まだ十分に賄えない——だから、本当に頼れる人に支えてもらいながら進む時です。常道から見れば「自立できていない」状態ですが、今に限ってはそれでいい。信頼できる先輩や上司の傘の下にいる、力のある協力者に任せている、家族に支えられている。そんな状況に、心当たりはありませんか?
とるべき行動
もしそうなら、無理に独り立ちしようと背伸びせず、その場にとどまって、誠実に役割を守るのがよさそうです。腰を据えて正しくしていれば吉ですよ。ただし、大きな川を渡る=大勝負や大きな冒険に乗り出すのは、今は控えたほうがいい時。守りを固める時期だと思ってください。
気をつけたいこと
支えてくれる人がいるからと油断して、勝手に大きく動くと足をすくわれます。今は「支えられている自分」を素直に認めて、その人との信頼を大事に育てる時。背伸びはもう少し先で大丈夫です。

この爻が陰陽反転すると、卦は風雷益(ふうらいえき)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文由頤、厲吉、利涉大川。

書き下し頤(やしな)いの由(よ)る所(ところ)なり。厲(あや)うけれども吉。大川(たいせん)を涉(わた)るに利(よろ)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
あなたが、みんなを養う側になる段階。重いけれど、報われる時です。
今は、こんな時
これまでの流れが行き着いて、今度はあなた自身が、周りの人たちが頼る「養いの源」になっている——そんな局面です。チームや家族があなたを当てにしている、あなたの判断や働きが多くの人の暮らしを支えている。責任が重く、気の抜けない立場で、正直しんどさもあるはずです。「自分が支えなきゃ」という重圧を感じていませんか?
とるべき行動
その重さに、まっすぐ向き合っていいと思いますよ。原典は「危ういけれど吉」、そして「大きな川を渡るに利あり」と告げています。つまり今は、責任は重くとも、思い切って大きな挑戦に乗り出していい時。これまで養いを受けてきたぶんを、今度は周りに還元していく——その覚悟が、道を大きく開きます。
気をつけたいこと
ただ、源である自覚が薄れて自分の養いを後回しにしすぎると、いつか枯れてしまいます。人を養う人ほど、自分の心と体のメンテナンスを忘れずに。危うさを越える鍵は、その自己ケアにありますよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は地雷復(ちらいふく)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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