山地剝

さんちはく

少しずつ削られ、はがれ落ちていく、衰えの時

上卦:艮(山) 下卦:坤(地)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文剝、不利有攸往。

書き下し剝(はく)は、往(ゆ)く攸(ところ)有るに利(よろ)しからず。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、これまで積み上げてきたものが少しずつ削られ、力が下から崩れていく——そんな下り坂の空気が流れているようです。

山が長い年月をかけて風雨に削られ、土に還っていくように、勢いが弱まり、はがれ落ちていく局面ですね。

物事が思うように進まなくなった時、味方や支えが減っていく時、努力しても目減りしていくように感じる時に、この卦はよく出ます。

この卦は「無理に進むには利がない」と告げています。つまり、今は攻める時ではなく、守って耐える時なんです。

ただ、衰えの時にも段階があって、ただ崩れるに任せて凶となる場面もあれば、うまく身を引いて難を逃れる場面、そして崩れの果てにわずかな「種」が残る場面もあります。

どう過ごすかはあなたが今どの段階にいるかで変わります。この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初六(しょりく) ― いちばん最初の段階

白文剝床以足、蔑貞凶。

書き下し床(しょう)を剝(は)ぐに足よりす。貞(てい)を蔑(なみ)すれば凶(きょう)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
土台のいちばん下から崩れ始める段階。ここで正しさを手放すと、危うくなります。
今は、こんな時
まだ表面には出ていないけれど、足元・根っこの部分から静かに崩れ始めている——そんな気配を感じていませんか?信頼の土台に小さなひびが入った、生活の基盤が少しずつ揺らいできた、関係の根本が削られ始めている。寝台の脚から削られていくような、いちばん下からの崩れです。もし心当たりがあるなら、今が踏みとどまるかどうかの分かれ目なんです。
とるべき行動
こんな時こそ、正しさ・誠実さという土台だけは手放さないことが大事です。崩れの気配に焦って、不正な手や安易な逃げに走らないこと。地味でも筋を通して足元を守る——それがこれ以上の崩れを食い止めます。
気をつけたいこと
「どうせ崩れていくなら」と投げやりになって、正しさを軽んじると、そこから一気に凶へ向かいます。下り坂の入り口こそ、姿勢を正して。崩れに飲まれないでくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は山雷頤(さんらいい)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

六二(りくじ)

白文剝床以辨、蔑貞凶。

書き下し床(しょう)を剝(は)ぐに辨(べん)よりす。貞(てい)を蔑(なみ)すれば凶(きょう)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
崩れが土台の枠まで進んできた段階。ここでも正しさを失えば、危うくなります。
今は、こんな時
初めは足元だけだった崩れが、もう少し上、骨組みの部分まで進んできた——そんな実感はありませんか?問題が一段深く広がってきた、味方や支えがさらに減ってきた、状況がじわじわ悪化している。寝台の崩れが枠まで及ぶように、削れが着実に進んでいる時です。心細さも増してくる頃ですね。
とるべき行動
崩れが進んでも、やはり正しさを軸に守りに徹するのがよさそうです。状況が悪いからと焦って勝負に出るより、被害を最小限に抑えることを優先する。応じてくれる味方が少ない時ほど、自分の筋だけは通しておいてください。
気をつけたいこと
孤立感から「もうどうにでもなれ」と正道を外すと、ここでも凶を招きます。支えが薄い時こそ、正しさが最後の頼り。投げ出さず、踏ん張りどころです。

この爻が陰陽反転すると、卦は山水蒙(さんすいもう)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

六三(りくさん)

白文剝之、无咎。

書き下し之を剝(は)ぐ。咎(とが)无し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
崩していく流れの中にいながら、そこから一歩離れられる段階。だから咎はありません。
今は、こんな時
周りが崩れていく・崩しにかかる流れの中にいるのに、あなただけはその空気に染まらず、距離を取れている——そんな立場にいませんか?周囲が後ろ向きになる中で自分は前向きさを保てている、悪い流れに乗らず一線を引けている、崩していく仲間から心は離れている。もしそうなら、あなたは流れの中にいながら、染まらずにいられているんです。
とるべき行動
その「染まらない距離感」を、そのまま保つのがよさそうです。周りの崩れに巻き込まれず、応じるべき正しいものに心を向けていれば、咎められることはない時ですから、孤立を恐れず自分の立ち位置を守ってください。みんなと一緒に崩れる必要はないんです。
気をつけたいこと
「周りに合わせないと浮く」という不安から、悪い流れに同調してしまわないように。ここで大事なのは、距離を保つ勇気。少し浮いても、その方が後で正解になりますよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は艮為山(ごんいさん)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

六四(りくし)

白文剝床以膚、凶。

書き下し床(しょう)を剝(は)ぐに膚(はだ)に以(およ)ぶ。凶(きょう)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
崩れがついに我が身に及ぶ段階。ここは正直に危険な時です。
今は、こんな時
これまで少し離れたところで進んでいた崩れが、ついに自分自身に直接降りかかってきた——そんな切迫を感じていませんか?被害が他人事でなく自分の身に及んできた、守ってきたものに直接ダメージが来た、安全圏だと思っていた場所が脅かされている。寝台の崩れが、ついに肌(身体そのもの)に達したような状態です。もし心当たりがあるなら、ここは率直に言って危ない段階なんです。
とるべき行動
危険が我が身に迫っている今は、見栄や意地を捨てて、身の安全を最優先にしてください。逃げる・離れる・守りを固めるのは、決して負けではありません。まず自分を守る。被害を食い止めることだけを考えて動くのがよさそうです。
気をつけたいこと
「ここまで耐えたんだから」と踏みとどまろうとすると、深い痛手を負いかねません。プライドより安全を。引くべき時に引けるかどうかが、この段階の分かれ目です。

この爻が陰陽反転すると、卦は火地晋(かちしん)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

六五(りくご)

白文貫魚、以宮人寵、无不利。

書き下し魚を貫(つらぬ)く。宮人(きゅうじん)を以(もっ)て寵(ちょう)せらる。利(よろ)しからざる无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
崩れの流れをまとめ直し、秩序へと導く段階。うまくいけば、何ごとも順調に運びます。
今は、こんな時
バラバラに崩れていた流れを、あなたが先頭に立ってまとめ、良い方向へ導けるようになる——そんな転機にいませんか?散らばっていた人や物事を一つにまとめられる、対立していた相手と折り合いをつけられる、混乱を秩序へ立て直せる。魚を一列に連ねて整えるように、ばらけたものに筋を通せる時です。もしそうなら、衰えの中の大きな潮目なんです。
とるべき行動
対立や奪い合いをやめて、皆を一つの秩序のもとにまとめ直すのがよさそうです。うまく束ねて良い流れに導ければ、すべてが順調に運ぶ、利あらざるなしの時ですから、まとめ役を引き受けてみてください。先頭で範を示し、皆を従わせる——そこに活路があります。
気をつけたいこと
まとめる時に、力で押さえつけたり、自分の手柄にしようとしたりすると、せっかくの和がほどけます。皆が自然と従いたくなるよう、公平に、謙虚に束ねることを心がけてくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は風地観(ふうちかん)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文碩果不食、君子得輿、小人剝廬。

書き下し碩果(せきか)食(くら)われず。君子は輿(こし)を得(え)、小人は廬(いおり)を剝(は)ぐ。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
崩れの果てに、ただ一つ「種」が残る段階。誠実な人は支えられ、そうでない人は自滅します。
今は、こんな時
すべてが削られ尽くしたように見える、その最後に、食べ残された大きな果実——つまり、次へつながる「種」が一つだけ残っている。そんな局面にいませんか?多くを失ったけれど、いちばん大事な核だけは手元に残っている、ゼロに近いけれど再起の芽がある、長い下り坂の底にようやく着いた。もしそうなら、ここは終わりであると同時に、次の始まりが宿る段階なんです。
とるべき行動
その残った「種」を、大切に守ってください。誠実に振る舞ってきた人は、ここで周りから担がれ、支えられて再起へ向かいます。だから今は、目先の利を奪い合うより、信頼という種を守ることに賭けるのがよさそうです。崩れの底は、再生の出発点でもあるんです。
気をつけたいこと
逆に、ここで自分のことだけを考えて奪い合えば、最後の拠り所まで自分で壊してしまいます。「小人は自らの宿を剝ぐ」——保身に走った者ほど、足場を失う段階。誠実さこそが、次へのチケットですよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は坤為地(こんいち)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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