火地晋
朝日が昇るように、前へ進み出ていく時
上卦:離(火) 下卦:坤(地)
白文晉、康侯用錫馬蕃庶、晝日三接。
書き下し晉(しん)は、康侯(こうこう)用(もっ)て馬を錫(たまわ)ること蕃庶(はんしょ)にして、昼日(ちゅうじつ)に三たび接(まみ)ゆ。
やさしく読み解くと
今のあなたの周りには、地平線から太陽が昇っていくような、ものごとが少しずつ明るく開けて、前へ進んでいく空気が流れているようです。
認められる、引き上げられる、立場が上がる、新しい場所へ踏み出す——そんな「上昇」の気配が漂う局面ですね。
昇進や抜擢の話が出ている時、努力がやっと日の目を見そうな時、新しいステージに進もうとしている時に、この卦はよく出ます。
ただ、その「進む勢い」が素直な実りになるか、それとも勢い余って空回りするかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。
進み始めたばかりで足踏みする時もあれば、貪るように進みすぎて危うくなる時もある。だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。
六つの爻辞 ― 段階ごとのことば
卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。
初六(しょりく) ― いちばん最初の段階
白文晉如、摧如、貞吉。罔孚、裕无咎。
書き下し晉(すす)むが如く、摧(くじ)かるるが如し。貞(ただ)しければ吉(きち)。孚(まこと)とせられざるも、裕(ゆた)かなれば咎(とが)无(な)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 進みたいのに、まだ前に出られない。でも焦らずゆったり構えていれば大丈夫な段階かもしれません。
- 今は、こんな時
- 前に進もうとしているのに、なぜか押し戻される——そんなもどかしさ、ありませんか?やる気はあるのに認めてもらえない、提案しても通らない、頑張っているのにまだ信用されていない気がする。新しい職場に入ったばかり、転職や異動の直後、気になる人にまだ存在を分かってもらえていない。もし心当たりがあるなら、今は「進みたいのに進めない」その入口にいるんだと思います。
- とるべき行動
- ここはあえて、ゆったり構えておくのがよさそうです。まだ信じてもらえなくても、ムキになって押し通そうとしない。正しいやり方を崩さず、心に余裕を持っていれば、それで咎められることはない時ですから。焦って空回りするより、信用が育つのを待つ——そのゆとりが、後でちゃんと効いてきますよ。
- 気をつけたいこと
- 認められないことに苛立って、無理に結果を出そうと先走ると、かえって評価を落としがち。今は「まだ伝わっていないだけ」。自分を安売りしたり、卑屈になったりせず、どっしり構えていてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は火雷噬嗑(からいぜいごう)に変わります(之卦)。
六二(りくじ)
白文晉如、愁如、貞吉。受茲介福、于其王母。
書き下し晉むが如く、愁(うれ)うるが如し。貞しければ吉。茲(こ)の介福(かいふく)を其の王母(おうぼ)より受く。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 進みながらも不安が消えない。でも正しさを守れば、思わぬ後押しが来る段階のようです。
- 今は、こんな時
- 前には進めているのに、心のどこかが晴れない——「このまま進んで大丈夫かな」と憂いを抱えていませんか?順調そうに見えて孤立を感じる、引き立ててくれる人がいなくて心細い、評価はされ始めたけれど確信が持てない。仕事でも、恋愛でも、こういう「進んでいるのに不安」という時期はあるものです。もしそうなら、今はその不安をひとりで抱え込んでいる段階かもしれません。
- とるべき行動
- 心配があっても、正しいやり方を曲げずに続けてみてください。まっすぐ守っていれば吉ですし、この段階は、目上の人や年長者——あなたを母親のように引き立ててくれる存在から、思いがけない大きな助けが届きやすい時なんです。だから、信頼できる先輩や上の立場の人を、遠ざけずに大事にしておくといいと思いますよ。
- 気をつけたいこと
- 不安のあまり、自分から心を閉ざしてしまわないこと。「どうせ誰も助けてくれない」と決めつけると、せっかく差し伸べられた手を取り損ねます。憂いは抱えたままでいい。でも、人とのつながりだけは開いておきましょう。
この爻が陰陽反転すると、卦は火水未濟(かすいびせい)に変わります(之卦)。
六三(りくさん)
白文眾允、悔亡。
書き下し衆(しゅう)允(ゆる)す、悔(く)い亡(ほろ)ぶ。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 周りの信頼が追いついてくる。わだかまりが消えていく段階かもしれません。
- 今は、こんな時
- これまでひとりで進んできたけれど、ようやく周りの人たちが「この人ならいい」と認め、味方になってくれ始めた——そんな手応え、ありませんか?チームが自分を信じてくれるようになった、孤立していたのに賛同が集まってきた、これまでの引っかかりが解けてきた。もしそうなら、今は周囲の支持があなたを後押ししてくれる段階です。
- とるべき行動
- ここまで抱えていた後悔や心残りは、もう手放して大丈夫だと思いますよ。皆が認めてくれているのですから、ひとりで突っ張らず、その信頼に素直に乗ってみてください。周りと足並みをそろえて進むことが、今はいちばんの追い風になります。
- 気をつけたいこと
- せっかく支持が集まってきたのに、「自分ひとりの力でここまで来た」と独走すると、その信頼はすっと引いていきます。ここまで来られたのは周りのおかげ——その感覚を忘れないでいてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は火山旅(かざんりょ)に変わります(之卦)。
九四(きゅうし)
白文晉如碩鼠、貞厲。
書き下し晉むこと碩鼠(せきそ)のごとし、貞しけれども厲(あや)うし。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 進み方が貪欲になりすぎているかも。正しくても危うい、ブレーキの段階です。
- 今は、こんな時
- 前へ前へと進んではいるけれど、その進み方が、大きなねずみが餌をあさるような、欲ばりで落ち着かないものになっていませんか?地位や利益に貪欲になっている、人を押しのけてでも上がろうとしている、手段を選ばず結果だけを追っている。本人は「正しく頑張っている」つもりでも、周りからは危うく見えている——もしそんな心当たりがあるなら、ここは要注意の段階です。
- とるべき行動
- いったん進む手を緩めて、自分の動き方を見直すのがよさそうです。この段階は、たとえ自分では正しいつもりでも危うい時だと、原典もはっきり警告しています。地位や利益への執着を一度脇に置いて、「何のために進んでいるんだっけ」と立ち止まってみてください。
- 気をつけたいこと
- いちばん危ないのは、貪っている自覚がないことです。「これくらい当然だ」と欲を押し通すと、足元から信用が崩れていきかねません。進む勢いがある時ほど、その勢いが欲に変わっていないか、自分に問いかけてみてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は山地剝(さんちはく)に変わります(之卦)。
六五(りくご)
白文悔亡、失得勿恤、往吉、无不利。
書き下し悔い亡ぶ。失得(しっとく)恤(うれ)うる勿(なか)れ、往けば吉、利あらざる无し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 得るか失うかを気にせず進める、いちばん運の伸びる段階かもしれません。
- 今は、こんな時
- 細かい損得をいちいち気に病まなくても、大きな流れが味方してくれる——そんな、伸びやかな手応えはありませんか?任せてもらえる立場になった、思い切って動ける場が来た、結果を計算しすぎなくても前に進める。昇進や大きな役割を得て、視界がひらけてきた時です。もし今がそういう局面なら、これはこの卦でいちばん良い段階です。
- とるべき行動
- もしそうなら、一つひとつの損得勘定にとらわれず、思い切って前へ進んでいい時です。進めば吉、何をやってもうまく運びやすい時ですから、安心して動いて大丈夫。「これで損したらどうしよう」と縮こまるより、大きく構えて踏み出すほうが、流れに乗れますよ。
- 気をつけたいこと
- ただ、「損得を気にしない」のは大らかさであって、雑さではありません。細部に無頓着になりすぎて、支えてくれる人への目配りを忘れると、せっかくの良い流れがもったいない。おおらかに、でも周りへの感謝は手放さずに進んでいきましょう。
この爻が陰陽反転すると、卦は天地否(てんちひ)に変わります(之卦)。
上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階
白文晉其角、維用伐邑、厲吉无咎、貞吝。
書き下し其の角(つの)に晉む。維(こ)れ用て邑(ゆう)を伐(う)つ。厲うけれども吉にして咎无し。貞(てい)には吝(りん)。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 進みすぎて、角まで行き着いた段階。攻めの矛先は内側だけに留めたい時です。
- 今は、こんな時
- 角の先まで突き進むように、もうこれ以上は進めないところまで来ていませんか?勢いが余って引き返せなくなっている、勝ちすぎて周りと摩擦が起きている、突き進んだ結果、外に向かって角を立てている。十分な成果が出ているのに、まだ前へ前へと押している。もしそんな「行き過ぎ」のサインがあるなら、今はその局面です。
- とるべき行動
- 今その勢いを使うなら、外に向けて攻めるのではなく、自分の内輪——自分の足元や、身近なほころびを正すことだけに向けるのがよさそうです。危なっかしくても、そこに留めておけば結果は良く、咎められることもない時ですから。ただし、これを「正しいやり方」として続けるのは、長い目で見ると物足りなさが残ります。あくまで一時の引き締めと心得てください。
- 気をつけたいこと
- 行き過ぎた勢いを外の誰かにぶつけると、勝っても角が立ち、しこりが残ります。「もっと進める」と矛先を広げず、整えるべきは自分の内側——そう切り替える冷静さを、ここでは大事にしてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は雷地豫(らいちよ)に変わります(之卦)。
白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。
読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。
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