地火明夷

ちかめいい

明るさが隠れる時。才を内にしまって、不遇をしのぐ時

上卦:坤(地) 下卦:離(火)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文明夷、利艱貞。

書き下し明夷(めいい)は、艱(かん)にして貞(てい)なるに利(よろ)し。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、太陽が地の下に沈んでしまったような、薄暗い空気が流れているのかもしれません。

あなた自身は光を持っている。力もある。なのに、それが正しく届かない、認められない、むしろ出すほど傷つく——そんな、外がこちらに味方してくれない局面ですね。

正当に評価されない職場にいる時、理不尽な相手の下で耐えている時、頑張りが裏目に出てしまう時、何を言っても通じない人間関係の中にいる時に、この卦はよく出ます。

でも、ひとつだけ覚えておいてほしいんです。

こういう暗い時代でも、自分の中の正しさだけは手放さずに、苦しさをこらえて守り抜く——それが、いちばん利のあるやり方になります。

そして、その「どう身を守り、どう耐えるか」の答えは、あなたが今どの段階にいるかで変わってきます。だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初九(しょきゅう) ― いちばん最初の段階

白文明夷于飛、垂其翼。君子于行、三日不食、有攸往、主人有言。

書き下し明夷(めいい)飛ぶに于(おい)て、其の翼(つばさ)を垂(た)る。君子(くんし)行くに于て、三日食らわず。往(ゆ)く攸(ところ)有れば、主人(しゅじん)言(げん)有り。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
傷つく前に、早めに身を引いておく段階かもしれません。誤解されても、志は守れます。
今は、こんな時
傷ついた鳥が、翼をたたんで低く飛んでいく——そんなふうに、今は無理に羽ばたかず、その場からそっと退くのが良い時です。空気が悪くなってきた職場、自分を大事にしてくれない場所、いても消耗するだけの関係。「ここはもう長くないな」と肌で感じていませんか?早めに距離を取ろうとすると、たいてい周りからは「なんで今さら」「逃げるのか」と言われがちです。でも、それは織り込み済みでいいんです。
とるべき行動
周りの声に揺さぶられず、自分の判断で早めに身を引いてみるのがよさそうです。多少ひもじい思い(=しばらく成果や評価が途切れること)をしても、志さえ守れていれば大丈夫。去り際に多少のことを言われても、気にしすぎないでいきましょう。
気をつけたいこと
「もう少し我慢すれば分かってもらえるかも」と踏みとどまると、かえって深く傷つくことがあります。誤解を恐れて動けなくなるのが、いちばんもったいない時かもしれません。

この爻が陰陽反転すると、卦は地山謙(ちざんけん)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

六二(りくじ)

白文明夷、夷于左股、用拯馬壯、吉。

書き下し明夷(めいい)、左股(さこ)を夷(やぶ)る。用(もっ)て拯(すく)うに馬壮(うまさかん)なれば、吉(きち)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
傷は負うけれど、助けが得られて立ち直れる段階のようです。
今は、こんな時
足を痛めて、思うように動けない——そんなふうに、今はどこかに痛手を負っているのかもしれません。仕事で手痛い失敗をした、人に裏切られた、心や体に無理がきている。「やられたな」という感覚、ありませんか?でも安心してほしいのは、この段階のあなたは一人ぼっちではないということ。力強い助けが、ちゃんとそばにある時なんです。
とるべき行動
傷を一人で抱え込まず、頼れる人や手段に素直に助けてもらうといいと思いますよ。力のある支え(信頼できる人・確かな方法)にきちんと頼れれば、ここはうまく切り抜けられる時ですから、遠慮はいりません。自分を立て直すことを最優先にしてください。
気をつけたいこと
意地を張って「自分でなんとかする」と抱え込むと、回復が遅れます。助けを借りるのは弱さではなく、賢さですよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は地天泰(ちてんたい)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

九三(きゅうさん)

白文明夷于南狩、得其大首、不可疾貞。

書き下し明夷(めいい)南に狩(か)るに于(おい)て、其の大首(たいしゅ)を得(う)。疾(と)く貞(ただ)しくすべからず。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
暗さの元を断つ好機。でも、急ぎすぎないことが肝心な段階かもしれません。
今は、こんな時
長く自分を苦しめてきた相手や原因に、ようやく手が届きそうな時です。理不尽の中心にいた人、こじれた問題の根っこ、ずっと我慢してきた状況。「ここを変えれば抜け出せる」という核心が、はっきり見えてきていませんか?大きな獲物(=問題の本丸)を仕留められるだけの力が、今のあなたにはあるんです。
とるべき行動
ただ、見えたからといって一気に片づけようと焦らないのがよさそうです。長くこじれてきたものは、急に正そうとすると反動が来ます。本丸を押さえたら、あとはじっくり時間をかけて整えていくつもりでいきましょう。
気をつけたいこと
「今すぐ全部正したい」という勢いが、いちばんの落とし穴です。性急に動くと、せっかくのチャンスを台無しにしかねません。手応えがある時ほど、ひと呼吸おいてください。

この爻が陰陽反転すると、卦は地雷復(ちらいふく)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

六四(りくし)

白文入于左腹、獲明夷之心、出于門庭。

書き下し左腹(さふく)に入りて、明夷(めいい)の心を獲(え)、門庭(もんてい)を出(い)づ。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
相手の本心を見抜いて、静かに離れる段階のようです。
今は、こんな時
相手のふところ深くまで入って、その本当の心が見えてしまった——そんな時かもしれません。組織の内側、相手の本音、ずっと一緒にいた関係の実態。「あ、この人(この場所)はもうダメだ」と、芯のところが分かってしまった瞬間、ありませんか?見えてしまった以上、もうそこに留まる理由はないんです。
とるべき行動
本心が見えたなら、騒ぎ立てず、静かにその場から出ていくのがよさそうです。相手を変えようとするより、自分が門を出る。波風を立てずに距離を置くことが、今は何よりの自衛になりますよ。
気をつけたいこと
見抜いたことを正面からぶつけて対決しようとすると、暗い場所に引きずり込まれます。気づいたことは胸にしまって、出口に向かうことを優先してください。

この爻が陰陽反転すると、卦は雷火豐(らいかほう)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

六五(りくご)

白文箕子之明夷、利貞。

書き下し箕子(きし)の明夷(めいい)、貞(てい)に利(よろ)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
才を隠して、芯だけは守り抜く段階かもしれません。
今は、こんな時
賢さや能力を、あえて表に出さず内にしまっておく——そんな振る舞いが正解になる時です。下手に有能さを見せると目をつけられる、本音を言えば角が立つ、まともでいるほど浮いてしまう。そんな息苦しい状況にいませんか?昔、難しい時代に賢者が愚かなふりをしてまで自分の芯を守ったように、今は「あえて目立たない」ことが身を守る知恵になるんです。
とるべき行動
外向きには控えめに、でも自分の中の正しさ・大事にしているものだけは絶対に手放さない——その構えでいくといいと思いますよ。苦しくても芯を守り続けることに、ちゃんと利のある時です。装うことは負けではありません。守るための、立派な戦略なんです。
気をつけたいこと
苦しさのあまり、芯まで曲げて流されてしまうと、暗さに飲み込まれます。隠すのは「見せ方」だけ。中身の正しさまで捨てないように気をつけてくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は水火既濟(すいかきせい)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上六(じょうりく) ― いちばん最後の段階

白文不明晦、初登于天、後入于地。

書き下し明(あき)らかならずして晦(くら)し。初めは天に登り、後(のち)には地に入る。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
暗さが極まる段階。高ぶった末に、落ちていく時かもしれません。
今は、こんな時
光がまったくなくなって、あたりが真っ暗になる——明夷の暗さが行き着くところまで行った段階です。これは、周りを暗くしてきた側(理不尽に振る舞う人、おごり高ぶった存在)が、いよいよ転落していく場面でもあります。初めは天に届くほど勢いがあったのに、最後は地の底まで落ちていく。身近に「あんなに強そうだったのに崩れていく人・状況」を見ていませんか?あるいは、自分自身が勢いに任せて行き過ぎていないか、ふと立ち止まる時かもしれません。
とるべき行動
もし自分が高ぶっている側なら、ここが引き返す最後のタイミングです。勢いを誇るのをやめて、足元を見直してみてください。暗さに苦しめられてきた側なら、もう少しの辛抱です。行き過ぎたものは、自然と崩れていきますから。
気をつけたいこと
いちばん危ないのは、「自分はまだ上に行ける」というおごりです。登りきったと思った瞬間が、落下の始まり。満ちたものは欠けていくのが流れだと、心に留めておきましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は山火賁(さんかひ)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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