山風蠱

さんぷうこ

溜まった乱れや問題に、向き合って立て直していく時

上卦:艮(山) 下卦:巽(風)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文蠱、元亨、利涉大川。先甲三日、後甲三日。

書き下し蠱(こ)は、元(おお)いに亨(とお)る、大川(たいせん)を渉(わた)るに利(よろ)し。甲(こう)に先んずること三日(みっか)、甲に後(おく)るること三日。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、長いあいだ放っておかれて溜まってしまったもの——古いやり方、こじれた問題、見て見ぬふりをしてきたこと——に、いよいよ向き合って立て直していく、そんな空気が流れているようです。

山のふもとに風が吹き込んで、淀んだ空気をかき回し、また整えていくイメージですね。

長年の問題に取り組む時、誰かの後始末や立て直しを任された時、放置してきたことに区切りをつける時、過去から受け継いだものを正す時に、この卦はよく出ます。

ただ、ひとつだけお伝えしておきますね。

立て直しは、強く押し切ればいいわけでも、放っておけば済むわけでもないんです。どう手をつけ、どこまで踏み込むかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってきます。

だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初六(しょりく) ― いちばん最初の段階

白文幹父之蠱、有子、考无咎、厲終吉。

書き下し父(ちち)の蠱(こ)を幹(つかさど)る。子(こ)有れば、考(こう)咎(とが)无し。厲(あや)うけれども終(つい)には吉。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
受け継いだ乱れを正し始める段階。危ういけれど、最後には良くなる時です。
今は、こんな時
前の代、前の担当、過去から受け継いだ乱れや問題に、ようやく手をつけ始める——今は、誰かが残していった課題を引き継いで、立て直そうとしている時かもしれません。前任者のやり残しを片づけている、家や組織の古い問題に向き合っている、過去のツケを清算しようとしている。そんな状況、ありませんか?気の重い作業ですが、ここで引き継ぐことには意味がある局面です。
とるべき行動
過去の乱れを、責めるのではなく、引き継いで正す気持ちで手をつけてみるといいと思いますよ。しっかり受け継ぐ者がいれば、過去の過ちは咎にならない。危ういけれど、最後には吉と出ています。最初は不安で、危なっかしく感じるかもしれません。でも、誰かが引き継いで直せば、過去は清算されます。焦らず、一つずつ。
気をつけたいこと
過去の乱れに向き合うと、つい「誰が悪かったのか」と犯人探しをしたくなります。でも、ここで大事なのは、責めることより、引き継いで直すこと。過去をなじるエネルギーを、立て直しのほうに向けてみてください。

この爻が陰陽反転すると、卦は山天大畜(さんてんたいちく)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

九二(きゅうじ)

白文幹母之蠱、不可貞。

書き下し母(はは)の蠱(こ)を幹(つかさど)る。貞(てい)にすべからず。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
柔らかい問題を正す段階。強く押し切らず、しなやかに対応する時です。
今は、こんな時
母親の代の問題のように、デリケートで、強く押し切れない種類の乱れに向き合っている——今は、正論をぶつけるだけでは解決しない、感情や情の絡んだ問題を扱っている時かもしれません。家族の繊細な問題に向き合っている、人の気持ちが絡んで一筋縄でいかない、強く言えば角が立つ相手を相手にしている。そんな状況、ありませんか?力ずくが通じない、難しい局面です。
とるべき行動
ここは、剛直に押し切ろうとせず、柔らかく、相手の気持ちに寄り添いながら対応するのがよさそうです。頑なに正しさを通そうとしてはいけないと出ています。正論で押すより、折り合いをつける。一気に変えようとせず、少しずつ。デリケートな問題ほど、しなやかさが力になります。
気をつけたいこと
「正しいことなんだから」と強引に押し通すと、かえってこじれるのがこの段階です。特に感情や関係が絡む問題では、正しさより、進め方のほうが大事なことも。柔らかさを、弱さと思わないでください。

この爻が陰陽反転すると、卦は艮為山(ごんいさん)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

九三(きゅうさん)

白文幹父之蠱、小有悔、无大咎。

書き下し父の蠱を幹る。小(すこ)しく悔(く)い有るも、大いなる咎(とが)无し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
勢い余って正そうとする段階。少し悔いても、大きな問題にはならない時です。
今は、こんな時
受け継いだ問題を正そうとして、つい力が入りすぎ、勢いで突っ走ってしまう——今は、熱意のあまり、やや行きすぎてしまいがちな時かもしれません。改革に前のめりになっている、正そうとして強く出すぎている、勢い余って周りとぶつかっている。そんな心当たり、ありませんか?少々やりすぎて、後で「ちょっと強引だったかな」と思う、そんな局面です。
とるべき行動
立て直しに力が入るのは良いことですが、少しだけ勢いを抑えて進めるといいと思いますよ。やりすぎて小さな悔いは残っても、大きな咎にはならないと出ています。熱意は大事にしつつ、周りへの配慮も少しだけ。多少の行きすぎは、誠実に取り組んでいる証でもあります。深刻に受け止めすぎなくて大丈夫です。
気をつけたいこと
いちばんの落とし穴は、勢いに任せて周りを置き去りにすることです。前のめりな分、摩擦も生まれやすい時。少し悔いるくらいの摩擦は許容範囲ですが、強引さが過ぎないよう、時々ペースを確かめてみてください。

この爻が陰陽反転すると、卦は山水蒙(さんすいもう)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

六四(りくし)

白文裕父之蠱、往見吝。

書き下し父の蠱を裕(ゆる)くす。往(ゆ)けば吝(りん)を見る。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
問題を手ぬるく見過ごす段階。先延ばしのままでは、恥を見る時です。
今は、こんな時
受け継いだ問題を、本気で正さず、手ぬるく見過ごしている——今は、「まあいいか」と先延ばしにして、問題を放置してしまいがちな時かもしれません。やらなきゃと思いつつ手をつけられずにいる、なあなあで済ませている、見て見ぬふりを続けている。そんな心当たり、ありませんか?今は楽でも、このまま進むと後で困る、そんな局面です。
とるべき行動
問題を手ぬるく扱っていることに気づいたら、先延ばしをやめて、きちんと向き合う方向に切り替えるのがよさそうです。このまま手をこまねいて進めば、やがて恥ずかしい思いをすると出ています。今は気が重くても、放置するほど傷は深くなります。小さくてもいいので、まず一歩、手をつけてみてください。
気をつけたいこと
いちばんの落とし穴は、「今すぐじゃなくてもいい」という先延ばしです。手ぬるさは、その場は楽ですが、問題を育ててしまいます。完璧にやろうとしなくていいので、まず動き出すこと。それが恥を避ける道です。

この爻が陰陽反転すると、卦は火風鼎(かふうてい)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

六五(りくご)

白文幹父之蠱、用譽。

書き下し父の蠱を幹る。用(もっ)て誉(ほま)る。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
受け継いだ問題をうまく立て直す段階。人の力を借りて、誉れを得る時です。
今は、こんな時
過去から受け継いだ乱れを、見事に立て直していく——今のあなたは、適切なやり方と人の力で、問題をうまく解決できる時かもしれません。立て直しの中心として頼られている、周りの協力を得て問題を片づけつつある、過去のツケをきれいに清算しようとしている。そんな手応え、ありませんか?一人で抱え込まず、周りと力を合わせて成し遂げる、実りある局面です。
とるべき行動
自分一人で背負い込まず、周りの力をうまく借りながら立て直していくといいと思いますよ。受け継いだ問題をうまく正せば、誉れを得ると出ています。有能な人に頼る、適材適所で任せる、人の知恵を活かす。立て直しを成し遂げたあなたには、自然と良い評判がついてきます。安心して進めてください。
気をつけたいこと
恵まれた段階ですが、「全部自分でやらなきゃ」と抱え込むと、せっかくの誉れも遠のきます。立て直しは、人の力を借りてこそ大きく進むもの。頼ることを、弱さと思わないでくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は巽為風(そんいふう)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文不事王侯、高尚其事。

書き下し王侯(おうこう)に事(つか)えず、其の事(こと)を高尚(こうしょう)にす。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
立て直しの外に立つ段階。役目を退き、自分の道を高く保つ時です。
今は、こんな時
世の中の役割や立て直しの現場から一歩退いて、自分の志や生き方を高く保つ——今は、第一線の務めから離れて、より自由な立場で、自分の信じる道を大切にする時かもしれません。役目を後進に譲ろうとしている、現場から退いて見守る側に回っている、世俗のしがらみから距離を置きたくなっている。そんな心境、ありませんか?引き際を考える、成熟した局面です。
とるべき行動
もう立て直しの中心を担い続けるより、一歩退いて、自分の志や価値観を大切に生きる方向もよさそうです。役目を背負い続けることだけが正解ではありません。後進に託す、現場を離れて見守る、自分の道を静かに極める。退くことは逃げではなく、ひとつの達成の形でもありますよ。
気をつけたいこと
退く時にいちばん気をつけたいのは、「自分がいなければ回らない」という思いを手放せないことです。志を高く保つことと、現場にしがみつくことは別。引き際を美しく選べる人は、退いた後も尊敬を集めます。手放す勇気を、大切にしてください。

この爻が陰陽反転すると、卦は地風升(ちふうしょう)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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