巽為風

そんいふう

風のように、低くしなやかに入り込んでいく時

上卦:巽(風) 下卦:巽(風)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文巽、小亨、利攸往、利見大人。

書き下し巽(そん)は、小(すこ)しく亨(とお)る。往(ゆ)く攸(ところ)有るに利(よろ)し、大人(たいじん)を見るに利し。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、正面から押し通すより、風のようにそっと隙間に入り込み、低い姿勢で従いながら浸透していく——そんな柔らかな空気が流れているようです。

風は形を持たず、どんな隙間にも入っていく。逆らわず、しなやかに従うことで、いつのまにか奥まで届く。派手ではないけれど、じわじわ通っていく、そんなイメージの卦です。

人に合わせて物事を進めたい時、柔らかく交渉や説得をしたい時、強く出るより従うほうがうまくいく時に、この卦はよく出ます。

ただ、その「従う・へりくだる」が、しなやかな強さになるか、それともただ流されて卑屈になるだけかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。

だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初六(しょりく) ― いちばん最初の段階

白文進退、利武人之貞。

書き下し進退(しんたい)す。武人(ぶじん)の貞(てい)に利(よろ)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
進むか退くか、迷って定まらない段階。芯を持って決めれば、道が開けます。
今は、こんな時
進もうか、退こうか、心が行ったり来たりして決められない——そんな迷いの中にいませんか?やるべきか見送るべきか踏ん切りがつかない、相手の出方をうかがってばかりで動けない、優柔不断になって時間だけが過ぎていく。風のように柔らかい性質ゆえに、かえって流されやすく、定まらない。今はそんな、足踏みの段階かもしれません。
とるべき行動
今は、柔らかさの中にも芯を一本通すのがよさそうです。武人がきっぱり決断するように、迷ったら「こうする」と腹を決めてみてください。ぶれずに正しい方向を定められれば、利のある時です。優しさは大事ですが、決める時には決める。その潔さが、迷いを断ち切ってくれますよ。
気をつけたいこと
あれこれ気を回しすぎて、いつまでも決められないのがいちばんもったいないです。柔軟さは長所ですが、過ぎると優柔不断になります。「ここぞ」という時には、思い切って一歩を選ぶ勇気を持ちましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は風天小畜(ふうてんしょうちく)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

九二(きゅうじ)

白文巽在床下、用史巫紛若、吉、无咎。

書き下し巽(したが)いて床下(しょうか)に在り。史巫(しふ)を用(もち)うること紛若(ふんじゃく)たれば、吉(きち)、咎(とが)无し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
とことん身を低くして、誠意を尽くす段階。真心が通じれば、良い結果になります。
今は、こんな時
自分を低く低く構えて、へりくだりながら物事を進めている——そんな状況にいませんか?目上の人や強い相手に対して、腰を低くして接している。表立って張り合わず、下から支える形を取っている。床の下にひざまずくほど身を低くするように、徹底して謙虚な姿勢でいる。今は、その低さが過剰に見えても、誠意さえこもっていれば力になる段階です。
とるべき行動
今は、その低い姿勢に、しっかり誠意を込めるのがよさそうです。ただ卑屈になるのではなく、真心を尽くして、人の助けも借りながら丁寧に事を運んでみてください。心からの誠実さがこもっていれば、良い結果になり、咎められることもありません(吉・无咎)から、安心して謙虚に徹していいんですよ。
気をつけたいこと
身を低くすること自体は悪くありませんが、心が伴わない「ただのへつらい」になると意味がありません。大事なのは、低さの中にある誠意。形だけ下手に出るのではなく、本気の真心を込めることを忘れないでくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は風山漸(ふうざんぜん)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

九三(きゅうさん)

白文頻巽、吝。

書き下し頻(しき)りに巽(したが)う、吝(りん)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
従いすぎて、しつこくなってしまう段階。少し恥ずかしい思いをするかもしれません。
今は、こんな時
相手に合わせよう、従おうとするあまり、何度も同じことを繰り返して、かえってしつこくなっていませんか?やたらと顔色をうかがってしまう、譲りすぎて主体性がなくなっている、へりくだりが過剰で見ていて窮屈。風がしきりに吹いて落ち着かないように、従う姿勢が度を越して、自分でも嫌になってくる。今はそんな、行き過ぎの段階かもしれません。
とるべき行動
今は、「従う」のさじ加減を見直すのがよさそうです。何でもかんでも合わせるのをやめて、譲るところと譲らないところの線を引いてみてください。低姿勢は美点ですが、繰り返しすぎると軽く見られます。一度きりの丁寧な対応のほうが、しつこい平身低頭より、ずっと相手に響きますよ。
気をつけたいこと
従いすぎは、ちょっと恥ずかしい思いにつながりやすい(吝)ものです。自分を曲げてばかりだと、いつのまにか自分が分からなくなります。優しさと卑屈は違う——その境目を意識して、芯のある柔らかさを取り戻しましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は風水渙(ふうすいかん)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

六四(りくし)

白文悔亡、田獲三品。

書き下し悔(く)い亡(な)し。田(かり)して三品(さんぴん)を獲(う)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
謙虚さが実を結び、確かな成果を手にする段階。後悔のない良い時です。
今は、こんな時
低い姿勢で誠実に従ってきたことが、ようやく形になって、しっかりした成果につながっている——そんな手応え、ありませんか?地道にへりくだってきたおかげで信頼を得た、丁寧な進め方が実を結んだ、思いがけずいくつもの良い結果を手にした。狩りで三種の獲物を仕留めるように、控えめな姿勢がちゃんと収穫を生む、報われる段階です。
とるべき行動
今は、これまでの謙虚なやり方に自信を持って、そのまま進めていいと思いますよ。低い姿勢は弱さではなく、ちゃんと実を生む強さでした。もう後悔の種はなく(悔亡)、確かな成果が得られる時ですから、安心して、誠実な進め方を続けてください。手にした成果は、素直に受け取って大丈夫です。
気をつけたいこと
成果が出たからといって、ここで急に強気に転じないことです。実を結んだのは、低くしなやかに進んできたから。その姿勢を崩さず、得たものを丁寧に扱うことで、良い流れが続いていきますよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は天風姤(てんぷうこう)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

九五(きゅうご)

白文貞吉悔亡、无不利。无初有終、先庚三日、後庚三日、吉。

書き下し貞(てい)にして吉(きち)、悔(く)い亡(な)し、利(よろ)しからざる无(な)し。初め无く終わり有り。庚(こう)に先だつこと三日、庚に後(おく)るること三日、吉。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
最初は戸惑っても、終わりはうまく整う段階。すべてが良い方へ向かう時です。
今は、こんな時
始まりはぎこちなく、戸惑うことが多かったけれど、終わってみればちゃんと形になっている——そんな展開を感じていませんか?滑り出しはうまくいかなかったのに尻上がりに良くなってきた、最初は手探りだったが段取りが見えてきた、前準備と後始末を丁寧にやることで物事が整っていく。今は、しなやかさが最も良い形で実る、充実した段階です。
とるべき行動
今は、正しい方向を保ちながら、始まりと終わりの両方に丁寧に手をかけるのがよさそうです。事を起こす前によく準備し、起こした後もしっかり見届ける。正しくしていれば吉、後悔も消え、うまくいかないことは何もない(貞吉・悔亡・无不利)時ですから、安心して、ていねいな段取りを心がけてください。初動でつまずいても、立て直せば大丈夫ですよ。
気をつけたいこと
始まりが順調でないと「もうダメだ」と早合点しがちですが、この段階は終わりが良い時です。途中で投げ出さず、前後の手当てを怠らないこと。最初の戸惑いに惑わされず、最後まで整える意識を持ちましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は山風蠱(さんぷうこ)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文巽在床下、喪其資斧、貞凶。

書き下し巽(したが)いて床下(しょうか)に在り。其の資斧(しふ)を喪(うしな)う。貞(てい)なるも凶。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
へりくだりが極まって、大事なものまで失う段階。注意が必要な時です。
今は、こんな時
身を低くするのが行き過ぎて、自分を支えるものまで失いかけていませんか?へりくだりすぎて足元から崩れている、譲りに譲って財産も決断力も手放してしまった、卑屈になりすぎて自分の拠り所がなくなった。床の下に深く沈み込み、路銀も斧(自分を守る手立て)も失うように、従順さが極まって身動きが取れなくなる——そんな、行き過ぎの局面です。
とるべき行動
今、このまま低く沈み込み続けるのは、正しいつもりでも凶——うまくいきにくい時です。だからこそ、ここで一度、頭を上げてみてください。「自分はへりくだりすぎていないか」「守るべきものまで手放していないか」を点検する。譲ることをやめ、自分の足場と決断力を取り戻すのが、よさそうですよ。
気をつけたいこと
「とにかく従っておけば安全」という思い込みが、いちばん危ない時です。低さも度を越すと、自分を失わせます。守るべき芯まで明け渡していないか——そこを見つめ直して、しなやかさと自分の軸を、両方取り戻してくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は水風井(すいふうせい)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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