風山漸

ふうざんぜん

順序を踏んで、少しずつ進んでいく時

上卦:巽(風) 下卦:艮(山)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文漸、女歸吉、利貞。

書き下し漸(ぜん)は、女(むすめ)の帰(とつ)ぐに吉(きち)。貞(ただ)しきに利(よろ)し。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、一足飛びにではなく、一段ずつ順を追って、ゆっくり確実に進んでいく——そんな空気が流れているようです。

渡り鳥の雁が、水際から岩へ、岩から木へと、決まった順序で高みへ進んでいくようなイメージですね。焦らず段階を踏むからこそ、その歩みは崩れません。

じっくり関係を育てたい時、新しい環境に少しずつ馴染んでいく時、結婚や昇進など人生の節目をきちんと順序立てて進めたい時に、この卦はよく出ます。

ただ、その「少しずつ」が、着実な前進になるか、それとも焦って順序を飛ばして無理が出るかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。

だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初六(しょりく) ― いちばん最初の段階

白文鴻漸于干、小子厲、有言、无咎。

書き下し鴻(こう)干(みぎわ)に漸(すす)む。小子(しょうし)厲(あや)うく、言(げん)有り、咎(とが)无し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
進み始めの危なっかしい段階。多少の非難はあっても、大ごとにはなりません。
今は、こんな時
水際に降り立った若い雁のように、まだ慣れない場所で一歩を踏み出したばかり——そんな段階にいませんか?新しい職場や学校に入ったばかり、初めての役割でおぼつかない、経験が浅くて周りから危なっかしく見られている。「まだ早い」「大丈夫なの」と言われることもあるかもしれません。でも、それは始まりの段階につきものの声なんです。
とるべき行動
周りの言葉に必要以上に傷つかなくて大丈夫です。今はまだ慣れない時期だと割り切って、一歩ずつ進んでいくのがよさそうですよ。多少危なっかしくて、何か言われても、大きなとがめにはなりませんから、おっかなびっくりでも前に進んでみてください。
気をつけたいこと
「未熟だと思われたくない」と背伸びして、いきなり大きく動こうとしないことです。今は水際の段階。次の岩、その次の木、と順番に進む時期です。最初から飛ぼうとしなくていいんですよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は風火家人(ふうかかじん)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

六二(りくじ)

白文鴻漸于磐、飲食衎衎、吉。

書き下し鴻(こう)磐(いわ)に漸(すす)む。飲食衎衎(かんかん)たり、吉(きち)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
安心できる足場を得て、心穏やかに過ごせる段階。良い時です。
今は、こんな時
危なっかしかった足元が、しっかりした岩の上に移って、ほっと一息つけている——そんな安定を感じていませんか?新しい環境にだいぶ馴染んできた、信頼できる仲間や居場所ができた、生活が落ち着いて気持ちにゆとりが出てきた。雁が大きな岩の上で、和やかに飲み食いしてくつろぐような、穏やかで満ち足りた段階です。
とるべき行動
今は、この落ち着いた時間をゆったり味わっていいと思いますよ。無理に次へ急がず、得られた安定を楽しみながら力を蓄える。穏やかで心地よい、良い時(吉)ですから、安心してこの足場の上で英気を養ってください。周りの人と和やかに過ごす時間も、大切にするといいですね。
気をつけたいこと
ただ、居心地が良すぎて、ここに永遠に居座ろうとしないように。雁はやがて次の段へ進みます。今は安らぐ時ですが、これがゴールではないことだけ、心の隅に置いておきましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は巽為風(そんいふう)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

九三(きゅうさん)

白文鴻漸于陸、夫征不復、婦孕不育、凶。利禦寇。

書き下し鴻(こう)陸(りく)に漸(すす)む。夫(おっと)征(ゆ)きて復(かえ)らず、婦(つま)孕(はら)みて育(やしな)わず、凶。寇(あだ)を禦(ふせ)ぐに利(よろ)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
本来の順序より先へ進みすぎてしまう、危うい段階のようです。
今は、こんな時
少しずつ進むべきところを、勢い余って一気に高みへ行こうとしている——そんな焦りや無理が出ていませんか?身の丈に合わない場所まで踏み込んでしまった、攻めの姿勢が行き過ぎている、関係や仕事を急ぎすぎてかみ合わなくなっている。雁が止まるべきでない高地まで出てしまうように、進む場所を間違えると、夫婦が離れ離れになり、授かったものも育たない——そんな、すれ違いやこじれが起きやすい局面です。
とるべき行動
今は、無理に攻め進むのをやめて、守りに切り替えるのがよさそうです。前へ出ようとすると、うまくいきにくい時ですが、逆に自分の足場を守り、入り込もうとするトラブルを防ぐことには向いているんです。今あるものを手放さないこと、こじれを広げないこと——守勢に徹するのが、この段階の正解だと思いますよ。
気をつけたいこと
「ここまで来たんだから引き返せない」と意地で進むと、傷が深くなります。進みすぎたと気づいたら、戻る・止まる勇気を持ってください。順序を飛ばした分は、どこかで取り戻す必要がある——そう考えて、いったん落ち着きましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は風地観(ふうちかん)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

六四(りくし)

白文鴻漸于木、或得其桷、无咎。

書き下し鴻(こう)木(き)に漸(すす)む。或(ある)いは其の桷(かく)を得(う)、咎(とが)无し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
慣れない場所でも、なんとか安らげる足場を見つける段階。咎はありません。
今は、こんな時
本来なら落ち着けないはずの場所で、それでもどうにか身の置きどころを見つけている——そんな状況にいませんか?自分に合わない環境に放り込まれた、不安定な立場だけど工夫してしのいでいる、慣れない役割でも自分なりの居場所をつくれた。雁が、止まりにくい木の上で、たまたま平らな枝を見つけて休むように、難しい場所でもうまく折り合えている段階です。
とるべき行動
今は、完璧な居場所を求めるより、「とりあえず安らげる場所」を確保するのが賢明です。自分に合う形を工夫して見つけてみてください。居心地が完璧でなくても、ちゃんと身を落ち着けられれば、咎められることはありませんから、無理に背伸びせず、しのげる形を探していくといいですよ。
気をつけたいこと
「こんな中途半端な場所、自分にふさわしくない」と居場所を蹴ってしまわないことです。今は、ぴったりの止まり木でなくても、休めるだけありがたい段階。柔軟に身を置けることが、この時期の強さになります。

この爻が陰陽反転すると、卦は天山遯(てんざんとん)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

九五(きゅうご)

白文鴻漸于陵、婦三歲不孕、終莫之勝、吉。

書き下し鴻(こう)陵(おか)に漸(すす)む。婦(つま)三歳(さんさい)孕(はら)まず、終(つい)に之(これ)に勝(まさ)る莫(な)し、吉(きち)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
長く隔てられ、誤解される時期を経て、最後には結ばれる段階。報われる時です。
今は、こんな時
高い場所まで進んだのに、なかなか思いが通じず、長いあいだ隔てられている——そんなもどかしさを感じていませんか?気持ちが届くまでに時間がかかっている、周りの邪魔や誤解で関係が進まない、努力しているのに成果が実るまで待たされている。雁が丘の上にいるのに、なかなか結ばれない——でも、これは「最後にはちゃんと報われる」種類の足踏みなんです。
とるべき行動
今は、途中で諦めないことがいちばん大事です。長く待たされても、邪魔が入っても、誠実に進み続けてみてください。最後には、その思いを邪魔できるものはなくなり、ちゃんと結ばれる(吉)時ですから、焦らず、信じて待つ価値があります。時間が、あなたの味方をしてくれますよ。
気をつけたいこと
「こんなに待っても無駄かも」と途中で投げ出すと、もう一歩のところで終わってしまいます。今は、結ばれる直前の足踏みの時期かもしれません。報われるまでの間(あいだ)を、どうか持ちこたえてくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は艮為山(ごんいさん)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文鴻漸于陸、其羽可用為儀、吉。

書き下し鴻(こう)陸(りく)に漸(すす)む。其の羽(はね)用(もっ)て儀(ぎ)と為(な)すべし、吉(きち)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
高みまで進みきって、その姿が人の手本になる段階。美しく実る時です。
今は、こんな時
順序を踏んで進んできた歩みが、ついに高いところまで届いて、その姿が周りの模範になっている——そんな段階にいませんか?長年の積み重ねが完成の域に達した、あなたの生き方や仕事ぶりが人の手本として見られている、後進が憧れるような存在になっている。雁が高く舞い上がり、その美しい羽根が儀式の飾りに使われるように、あなたの歩んだ道そのものが、価値あるものとして輝いている段階です。
とるべき行動
今は、ここまで順序を守って進んできた自分を、誇っていいと思いますよ。着実に高みへ至ったその姿は、人の手本となる美しいもの(吉)です。これからは、自分が進むことより、その姿を周りに分け与える——後に続く人を導いたり、整った在り方を示したりする側に回ると、流れがもっと良くなります。
気をつけたいこと
高みに至っても、ここまで来られたのは「順序を飛ばさなかった」からだということを忘れずに。手本となる立場だからこそ、驕らず、丁寧な歩みを最後まで崩さない。その一貫した姿勢が、あなたの価値をいっそう確かなものにしてくれますよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は水山蹇(すいざんけん)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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