天山遯
天山遯(てんざんとん)とは、「一歩引いて、間合いをとる時」を表す卦です。
上卦:乾(天) 下卦:艮(山)
白文遯、亨、小利貞。
書き下し遯(とん)は亨(とお)る。小(すこ)しく貞(てい)に利(よろ)し。
現代語訳遯の卦は、通じる。正しさを守れば、少しばかりよい。
やさしく読み解くと
今のあなたの周りには、前に出て押し進めるより、そっと身を引いて、距離をとったほうがいい——そんな空気が流れているようです。
山の上に天があって、その天はどんどん遠ざかっていく。引くことでかえって物事がうまく収まる、そういうイメージですね。
合わない場所から離れたい時、無理な争いから手を引きたい時、なんとなく潮時を感じている時に、この卦はよく出ます。
ただ、その「引くこと」がきれいな撤退になるか、それとも逃げ遅れて痛手を負うかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってくるんです。
だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。
六つの爻辞 ― 段階ごとのことば
卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。
初六(しょりく) ― いちばん最初の段階
白文遯尾、厲、勿用有攸往。
書き下し遯(とん)の尾(お)なり。厲(あや)うし。往(ゆ)く攸(ところ)有るに用(もち)うる勿(なか)れ。
やさしく読み解くと
逃げ遅れて、いちばん後ろに取り残されかけているのかも。今は無理に動かないのが安全です。
この爻が陰陽反転すると、卦は天火同人(てんかどうじん)に変わります(之卦)。
六二(りくじ)
白文執之用黃牛之革、莫之勝說。
書き下し之(これ)を執(と)るに黄牛(こうぎゅう)の革(かわ)を用(もち)う。之を説(と)くに勝(た)うる莫(な)し。
やさしく読み解くと
固く心を決めれば、誰にも揺るがされない段階かもしれません。
この爻が陰陽反転すると、卦は天風姤(てんぷうこう)に変わります(之卦)。
九三(きゅうさん)
白文係遯、有疾厲、畜臣妾吉。
書き下し係(つな)がれて遯(のが)る。疾(やまい)有りて厲(あや)うし。臣妾(しんしょう)を畜(やしな)うには吉(きち)。
やさしく読み解くと
引きたいのに、しがらみに縛られて動けない段階のようです。
この爻が陰陽反転すると、卦は天地否(てんちひ)に変わります(之卦)。
九四(きゅうし)
白文好遯、君子吉、小人否。
書き下し好(この)みて遯(のが)る。君子(くんし)は吉(きち)、小人(しょうじん)は否(しか)らず。
やさしく読み解くと
好きなもの・惜しいものを手放して引ける人が、うまくいく段階かもしれません。
この爻が陰陽反転すると、卦は風山漸(ふうざんぜん)に変わります(之卦)。
九五(きゅうご)
白文嘉遯、貞吉。
書き下し嘉(よ)き遯(とん)なり。貞(てい)にして吉(きち)。
やさしく読み解くと
いちばん見事な、時宜にかなった引き際。正しく退けば吉です。
この爻が陰陽反転すると、卦は火山旅(かざんりょ)に変わります(之卦)。
上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階
白文肥遯、无不利。
書き下し肥(ゆた)かに遯(のが)る。利(よろ)しからざる无(な)し。
やさしく読み解くと
何のしがらみもなく、ゆとりをもって引ける最高の段階。妨げは何もありません。
この爻が陰陽反転すると、卦は澤山咸(たくざんかん)に変わります(之卦)。
白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下し・現代語訳は当サイトによる訓読・訳です。
ここまで読んでくださって、おつかれさまでした。学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。
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