天風姤

てんぷうこう

思いがけない出会いと、そっと忍び寄るものの時

上卦:乾(天) 下卦:巽(風)

卦辞 ― この卦全体のことば

白文姤、女壯、勿用取女。

書き下し姤(こう)は、女(おんな)壮(さか)んなり。女を取(めと)るに用(もち)うる勿(なか)れ。

やさしく読み解くと

今のあなたの周りには、予想していなかった人・もの・出来事が、ふいに入り込んでくる——そんな空気が流れているようです。

強い風が、いろんなものを運んでくるようなイメージですね。出会いそのものは、良いきっかけにも、やっかいの種にもなり得ます。

新しい人との縁が舞い込む時、思わぬ誘いや話が来る時、まだ小さいけれど放っておくと広がりそうな問題が芽を出す時に、この卦はよく出ます。

ただ、ひとつお伝えしておきますね。

その出会いや兆しが、良い実りになるか、それともじわじわ手に負えなくなるかは、あなたが今どの段階にいるかで大きく変わってくるんです。

小さなうちに抑えるべき時もあれば、大事に育てるべき時もある。だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。

六つの爻辞 ― 段階ごとのことば

卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。

いちばん下の爻

初六(しょりく) ― いちばん最初の段階

白文繫于金柅、貞吉、有攸往、見凶、羸豕孚蹢躅。

書き下し金柅(きんじ)に繋(つな)ぐ。貞(てい)なれば吉(きち)。往(ゆ)く攸(ところ)有れば凶(きょう)を見る。羸豕(るいし)孚(まこと)に蹢躅(てきちょく)す。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
まだ小さな兆しのうちに、止めておくのが吉。動き出すと厄介になる段階かもしれません。
今は、こんな時
車輪をブレーキで止めておくように、今はその「芽」を進ませないでおくのが良い時です。まだ小さくて見過ごしがちだけれど、放っておくと勝手に動き出して止まらなくなる——そんな種類のもの、心当たりはありませんか?断りきれずに乗りかけている誘い、出来心で始まりそうな関係、小さなほころびや甘い習慣。「これくらい大丈夫」と思っていると、痩せた豚がそわそわ歩き回るように、地味なものほどしぶとく動き出すんです。
とるべき行動
今は、その芽が大きくなる前に、しっかり止めておくのがよさそうです。誘いを断る、距離を取る、最初のひと押しを我慢する。ここで踏みとどまって正しさを守れば、それが吉につながる時です。逆に「ちょっとくらい」と進んでしまうと、後で痛い目を見やすいので、ここは止めておきましょう。
気をつけたいこと
いちばん危ないのは、小さいからと侮ること。「まだ大したことない」と油断したものほど、気づいた時には手がつけられなくなっています。今のうちなら、軽く止められるんですよ。

この爻が陰陽反転すると、卦は乾為天(けんいてん)に変わります(之卦)。

下から2番目の爻

九二(きゅうじ)

白文包有魚、无咎、不利賓。

書き下し包(つつ)みに魚(うお)有り。咎(とが)无(な)し。賓(ひん)に利(よろ)しからず。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
出会ったものを、自分の手元できちんと受け止めておける段階。咎められることはありません。
今は、こんな時
台所の包みに魚がちゃんと収まっているように、今は巡ってきた縁や役割を、自分のところで上手に受け止められている時です。新しく入ってきた人、任された案件、舞い込んだ話——それを大げさに広げず、自分の手の届く範囲で大事に扱えている。そんな手応えはありませんか?
とるべき行動
もしそうなら、そのまま自分の手元でしっかり面倒を見るのがよさそうです。今はきちんと受け止めていれば、咎められることはない時ですから、安心して向き合って大丈夫。ただ、あちこちに見せびらかしたり、関係ない人にまで広げたりはしないほうがいいと思いますよ。
気をつけたいこと
気をつけたいのは、せっかく手元に収まったものを、外に開きすぎること。「いろんな人に関わらせよう」と広げると、かえって収拾がつかなくなります。今は、自分の責任の範囲で静かに扱うのがちょうどいいんです。

この爻が陰陽反転すると、卦は天山遯(てんざんとん)に変わります(之卦)。

下から3番目の爻

九三(きゅうさん)

白文臀无膚、其行次且、厲、无大咎。

書き下し臀(しり)に膚(はだ)无(な)し、其の行(あゆ)み次且(しそ)たり。厲(あや)うけれども、大いなる咎(とが)无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
落ち着かず、進みあぐねる段階。危うさはあるけれど、踏みとどまれば大ごとにはなりません。
今は、こんな時
座っても落ち着かない、進もうとしても足がうまく出ない——そんな、そわそわと宙ぶらりんな時にいませんか?関わるべきか引くべきか決めかねている、近づきたいのにきっかけがつかめない、中途半端な立場でやきもきしている。もし思い当たるなら、確かに今は少し危うく、足元が定まらない局面です。
とるべき行動
それでも、焦って無理に動かないのがよさそうです。落ち着かないなりに、軽はずみな行動を控えて踏みとどまる。確かに危うさはありますが、無理さえしなければ大きな失敗にはつながらない時ですから、必要以上に自分を追い込まないでくださいね。
気をつけたいこと
気をつけたいのは、落ち着かなさに耐えきれず、勢いで突っ走ってしまうこと。そわそわするからこそ、一拍おく。今は「動かないこと」が、自分を守ってくれる時なんです。

この爻が陰陽反転すると、卦は天水訟(てんすいしょう)に変わります(之卦)。

下から4番目の爻

九四(きゅうし)

白文包无魚、起凶。

書き下し包(つつ)みに魚(うお)无(な)し。起(た)てば凶(きょう)。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
手元にあったものを失っている段階。ここで動くと、かえって事態が悪くなりやすい時です。
今は、こんな時
包みを開けてみたら、入っているはずの魚がない——そんなふうに、そばにいてくれた人や、手元にあったはずのものが、いつの間にか離れていってしまった時を表しています。頼りにしていた人が離れた、味方だと思っていた相手と疎遠になった、大事なつながりが切れてしまった。「気づいたら一人になっていた」「あてにしていたものがなかった」、そんな心当たりはありませんか?
とるべき行動
こういう時こそ、焦って何か仕掛けようとしないことです。失ったものを取り返そうと勢いよく動くと、かえって傷口が広がりやすい。まずは、なぜ離れていったのかを静かに振り返って、自分の側を整えるところから始めてみてください。
気をつけたいこと
ここで「なんとかしなきゃ」と立ち上がって強引に動くと、凶——つまり、事態がもっとこじれやすい時です。今は動く時ではなく、足元を見直す時。逸る気持ちを、そっと抑えておきましょう。

この爻が陰陽反転すると、卦は巽為風(そんいふう)に変わります(之卦)。

下から5番目の爻

九五(きゅうご)

白文以杞包瓜、含章、有隕自天。

書き下し杞(き)を以(もっ)て瓜(うり)を包む。章(しょう)を含む。天より隕(お)つる有り。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
内に実力を秘めて待つ段階。時が満ちれば、思わぬ良いものが向こうからやってきます。
今は、こんな時
高い木が、その下の瓜をそっと覆って守るように、今のあなたは自分の力や良さを、ひけらかさずに内に蓄えている時です。すぐに評価されなくても、地道に実力を磨いている、控えめに役割を果たしている、表に出さず良い種を育てている。そんな段階にいませんか?派手さはなくても、中身はちゃんと充実しているんです。
とるべき行動
もしそうなら、その「内に秘めて、焦らず時を待つ」姿勢を、そのまま続けるのがよさそうです。自分から無理に売り込まなくて大丈夫。こうして誠実に力を蓄えていれば、やがて天から実りが落ちてくるように、思いがけない良縁やチャンスが向こうからやってくる時ですよ。
気をつけたいこと
気をつけたいのは、結果が出ないことに焦って、無理に自分を大きく見せようとすること。今はアピールの時ではなく、中身を充実させる時。その充実が、向こうから人を引き寄せるんです。

この爻が陰陽反転すると、卦は火風鼎(かふうてい)に変わります(之卦)。

いちばん上の爻

上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階

白文姤其角、吝、无咎。

書き下し其の角(つの)に姤(あ)う。吝(りん)なれども、咎(とが)无(な)し。

やさしく読み解くと

ひとことで言うと
高く昇りすぎて、出会いそびれる段階。少し寂しさは残りますが、大きな失敗にはなりません。
今は、こんな時
角の先のいちばん高いところで出会う——つまり、上がりすぎて、人の輪からぽつんと離れてしまっている状態です。プライドや理想が高くなりすぎて人が寄りつかない、正しさにこだわるあまり孤立している、もう関わるには遅すぎる段階に来ている。「自分は間違っていないのに、なぜか人が離れていく」、そんな心当たりはありませんか?
とるべき行動
ここは、孤立を無理に埋めようと焦らなくていいと思いますよ。少し寂しくても、自分の筋を通してきた結果なら、それはそれで一つの在り方です。ただ、もし人とのつながりを取り戻したいなら、高く構えた肩の力を、少しだけ抜いてみてください。
気をつけたいこと
物足りなさや寂しさは残るかもしれません。でも、筋を通した上での孤立なら、咎められるような失敗ではない時です。自分を責めすぎず、ただ「高くなりすぎていないか」だけは、ときどき振り返ってみてくださいね。

この爻が陰陽反転すると、卦は澤風大過(たくふうたいか)に変わります(之卦)。

白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。

読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。

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