離為火
明るく照らす時。何に寄りかかるかが、問われている
上卦:離(火) 下卦:離(火)
白文離、利貞、亨。畜牝牛、吉。
書き下し離(り)は、貞(ただ)しきに利(よろ)し、亨(とお)る。牝牛(ひんぎゅう)を畜(やしな)えば、吉(きち)。
やさしく読み解くと
今のあなたの周りには、火が燃え立つように、明るく華やかで、人目に触れ、勢いのあるエネルギーが満ちているようです。
ただ、火というのは面白いもので、薪がなければ燃えられません。何かに「付いて」はじめて輝けるんです。だからこの卦は、明るさの卦であると同時に、あなたが何に・誰に寄りかかっているかを問う卦でもあるんですね。
注目を浴びている時、情熱が高まっている時、何か(人・組織・目標)に身を寄せて頑張っている時に、この卦はよく出ます。
ただ、その火が、周りをあたたかく照らす良い火になるか、それとも燃え上がりすぎて自分や周りを焼いてしまう火になるかは、あなたが今どの段階にいるかで変わってきます。
原典は「牝牛(めうし)を養うように、柔らかく従順な心を保てば吉」と告げています。だから、この先の「今いる段階」が、いちばんの答えになりますよ。
六つの爻辞 ― 段階ごとのことば
卦には、下から上へ六本の「爻(こう)」があります。同じ卦でも、どの爻に注目するかで場面が変わっていく——一つの物語の六つの場面だと思ってください。下から順に見ていきましょう。
初九(しょきゅう) ― いちばん最初の段階
白文履錯然、敬之无咎。
書き下し履(ふ)むこと錯然(さくぜん)たり。之(これ)を敬(つつし)めば咎(とが)无(な)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 始まりで足取りが乱れがちな段階。丁寧に踏み出せば大丈夫です。
- 今は、こんな時
- 朝、動き出しの足取りがあちこち入り乱れて、まだ落ち着かない——そんなふうに、何かを始めたばかりで、勝手がつかめずバタバタしていませんか?新しい仕事や環境に入ったばかりで要領を得ない、やる気はあるのに空回りしている、気持ちが先走って段取りが定まらない。もし心当たりがあるなら、今は火がつき始めたばかりの、いちばん最初の段階なんだと思います。
- とるべき行動
- 勢いで突っ走らず、一歩一歩を丁寧に、慎んで踏み出すのがよさそうです。原典も、ここを敬い慎んで進めば咎なし——大きく外しはしないと告げています。最初に型を整えておけば、後がぐっと楽になりますよ。
- 気をつけたいこと
- 燃え始めの火は勢いだけで暴れがち。「早く結果を」と雑に飛ばすと、足元が乱れたまま進んでつまずきます。最初こそ、ひと呼吸おいて丁寧に。それが後の安定をつくります。
この爻が陰陽反転すると、卦は火山旅(かざんりょ)に変わります(之卦)。
六二(りくじ)
白文黃離、元吉。
書き下し黃離(こうり)、元(おお)いに吉(きち)。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 偏らない明るさが、いちばん輝く段階かもしれません。最上の吉です。
- 今は、こんな時
- 黄色——どちらにも偏らない、まん中の落ち着いた色。その黄色のように、行き過ぎず、控えめすぎず、ちょうどよく明るくいられている——そんな手応えはありませんか?感情に振り回されず冷静でいられる、出しゃばらず引っ込みすぎず立ち位置がちょうどいい、周りを穏やかに照らせている。もしそうなら、今のあなたは火がいちばん美しく燃える段階にいます。
- とるべき行動
- この「ちょうどよさ」を、そのまま大事にするのがよさそうです。ここは、これ以上ないほど良い時(元吉)ですから、奇をてらわず、今のバランスを保つだけで十分。偏らない明るさが、自然と人を引き寄せ、ものごとを実らせてくれますよ。
- 気をつけたいこと
- 絶好調だからこそ、「もっと目立とう」「もっと派手に」と火を強めすぎないことです。ちょうどよさは、足しても引いても崩れます。今の中庸を保つこと——それがこの最高の運を本物にしてくれます。
この爻が陰陽反転すると、卦は火天大有(かてんたいゆう)に変わります(之卦)。
九三(きゅうさん)
白文日昃之離、不鼓缶而歌、則大耋之嗟、凶。
書き下し日(ひ)昃(かたむ)くの離(り)、缶(ほとぎ)を鼓(う)ちて歌(うた)わざれば、則(すなわ)ち大耋(たいてつ)の嗟(なげ)き、凶。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 盛りが過ぎていく段階。移ろいを受け入れられるかが分かれ目です。
- 今は、こんな時
- 日が西に傾いていくように、何かの盛りが過ぎて、終わりに向かいつつある——そんな時にいませんか?絶頂を過ぎて少しずつ下り坂を感じている、若さや勢いが昔ほどではないと気づく、ひとつの時代が終わろうとしている。寂しさを感じるのは自然なことです。問題は、その移ろいを穏やかに受け止められるか、それとも嘆いて取り乱してしまうか、なんです。
- とるべき行動
- 傾く日を引き止めようとするより、鼓を打って歌うように、移ろいを楽しんで受け入れるのがよさそうです。終わりゆくものを惜しみながらも、そこに区切りと感謝を見出す。執着して嘆くより、軽やかに次へ向かう心構えが、この段階を救ってくれます。
- 気をつけたいこと
- 移ろいを受け入れられず、「もう年だ」「終わってしまった」と嘆き続けると、原典の言う凶——気持ちまで沈んでしまいやすい時です。沈む夕日も美しい、そう思える余裕を持ちたいですね。
この爻が陰陽反転すると、卦は火雷噬嗑(からいぜいごう)に変わります(之卦)。
九四(きゅうし)
白文突如其來如、焚如、死如、棄如。
書き下し突如(とつじょ)として其(そ)れ來(きた)るが如(ごと)く、焚(や)くが如く、死(し)するが如く、棄(す)つるが如し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 火が燃え上がりすぎる段階。激しさのコントロールが鍵かもしれません。
- 今は、こんな時
- 突然どこからか燃え移って、燃え盛り、焼き尽くし、あっという間に灰になって捨てられる——そんな激しく危うい火の勢いを感じていませんか?感情が一気に爆発しそうになる、勢いに任せて突っ走って自分を消耗している、燃え上がったものが急に冷めて投げ出されそう。もし心当たりがあるなら、今は火が制御を失いかけている、危ない段階かもしれません。
- とるべき行動
- 勢いのまま燃え上がらせず、いったん火を抑えて、自分をクールダウンさせるのがよさそうです。感情が高ぶった時ほど、ひと呼吸おく。一気に燃やし尽くす生き方より、長く穏やかに灯し続けることを意識してみてください。激しさは諸刃の剣なんです。
- 気をつけたいこと
- 突然の燃え上がりは、突然の消滅と隣り合わせです。勢いだけで突き進むと、燃え尽きて何も残らなかった、ということになりかねません。今は火力を上げる時ではなく、上手に保つ時。無理に焚きつけないでくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は山火賁(さんかひ)に変わります(之卦)。
六五(りくご)
白文出涕沱若、戚嗟若、吉。
書き下し涕(なみだ)を出(いだ)すこと沱若(たじゃく)たり、戚嗟(せきさ)たり、吉。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 涙が出るほど真剣に向き合う段階。その真剣さが、吉を呼びます。
- 今は、こんな時
- 涙があふれ、憂え、ため息が出るほど、心を込めて何かに向き合っている——そんな時にいませんか?うまくいかなくて悔し涙が出る、責任の重さに胸がいっぱいになる、大切なことだからこそ不安で胸が痛む。一見、苦しくて弱気な状態に見えるかもしれません。でも実は、それだけ真剣に、誠実に向き合えているということなんです。
- とるべき行動
- その真剣さや、こみ上げる思いを、無理に抑え込まなくて大丈夫です。心から憂え、真剣に向き合えるこの状態を、原典は吉——良い結果につながると告げています。涙が出るほどの本気こそ、人の心を動かし、道を開いてくれますよ。
- 気をつけたいこと
- ただ、嘆きが「真剣さ」を越えて「絶望」になってしまうと、火が消えてしまいます。憂えながらも、前を向く気持ちは手放さないこと。その涙は弱さではなく、本気の証——そう受け止めてくださいね。
この爻が陰陽反転すると、卦は天火同人(てんかどうじん)に変わります(之卦)。
上九(じょうきゅう) ― いちばん最後の段階
白文王用出征、有嘉折首、獲匪其醜、无咎。
書き下し王(おう)用(もっ)て出征(しゅっせい)す。嘉(よ)きこと有りて首(かしら)を折(くじ)く。獲(う)るは其(そ)の醜(しゅう)に匪(あら)ず、咎(とが)无(な)し。
やさしく読み解くと
- ひとことで言うと
- 行き過ぎを断つ段階。要だけを押さえ、深追いしなければ大丈夫です。
- 今は、こんな時
- 王が軍を率いて出ていき、相手の頭目だけを討ち、付き従った者まで巻き込みはしない——そんなふうに、問題を根本から断ち切る、決着の段階に来ていませんか?長く続いた問題にケリをつける、悪い流れの大もとを断つ、毅然と決断を下す。もし今がそういう局面なら、火の明るさで物事をはっきり照らし出し、断つべきを断つ時です。
- とるべき行動
- 断つべき「大もと(首謀者)」だけを的確に押さえ、関係ない所まで焼き払わないのがよさそうです。原典も、要を断って深追いしなければ咎なし——大きく外さないと告げています。狙いを絞って、必要な所だけ毅然と。それで十分なんです。
- 気をつけたいこと
- 明るさと勢いが極まると、つい何もかも焼き尽くしたくなります。でも、関係ない人まで巻き込んだり、やりすぎて敵を増やしたりすれば、せっかくの決着が台無しに。要を断ったら、そこで火を収める——その引き際が肝心ですよ。
この爻が陰陽反転すると、卦は雷火豐(らいかほう)に変わります(之卦)。
白文は朱熹『周易本義』系の経文(中國哲學書電子化計劃 ctext.org・パブリックドメイン)、書き下しは当サイトによる訓読です。
読んで学ぶのもいいですが、易は「自分の問いで引いてみる」と、ぐっと身近になりますよ。
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